空白埋める新動脈 期待の「中之島線」 量高速輸送としての鉄道事業は市民生活に不可欠のものとなっている。特に、 関西は「私鉄王国」と呼ばれているが、大阪市中之島地区の淀屋橋以西は永ら く‘鉄道の空白地帯‘となっていた。その空白を埋めるべく現在、建設が進め られているのが「中之島線」で、京阪電鉄・天満橋駅から、大阪国際会議場ま での約2.9?を結ぶもの。
大事業は、中之島高速鉄道?が事業主体となり工事を行い、列車運行は京阪電鉄が行う上下分離方式で実施さ れている。その中之島高速鉄道の坂本冨司雄社長に、建設までの経緯や中之島線もたらす効果などについて聞 いてみた。 (渡辺真也)
【写真】坂本藤雄社長 〜〜〜〜〜 “上下分離方式”で実現 〜〜〜〜〜 淀屋橋駅からの延伸は不可能
――まず初めに中之島船の建設に到るまでの経緯からお話願えますか。
坂本社長 : 計画がオーソライズされましたのが平成元年5月の運輸政策審議会の10号答申です。答申で は、緊急に整備する路線と2005年度までに着手する路線、検討する路線—の3段階があり、中之島 は20 05年度までに着手する路線とされておりましたが、実際には2003年に着手しました。 ――京阪電鉄内部ではいつ頃から。
坂本社長 : 昭和50年代に本社の中で検討が始まっております。その後、10号答申が出された後の平成 3年に「中之島新線対策委員会」が発足して体制づくりが行われ、実現に向けた調査検討が進められました。
――調査検討を進めていく上での課題は。 坂本社長 : やはり事業費をどうやって調達するかです。京阪電鉄が独自でやることは無理ですし、国や地 元自治体の補助制度を利用できないかを検討しました。例えば、当時あった特定都市鉄道整備積立金制度につ いても検討をしました。その後、平成11年度からの2年計画で全国11路線を対象に、採算性などを検討す る都市鉄道調査が実施され、そのひとつに中之島が選ばれました。その調査結果を受けて出された19号答申 で、償還型上下分離方式導入の提案がなされました。 ――現在採用されている方式ですね。
坂本社長 : ええ、現在の事業スキームです。下の施設整備と上の運行部分を分離して実施するもので、運 行は京阪電鉄が、インフラ整備を中之島高速鉄道会社が行うものです。19号答申が出た後の平成13年に京 阪と大阪府、大阪市の出資による第3セクターとして設立されました。償還期間は通常30年ですが、当事業 は40年となっております。
――ルートの設定にあたってはどのように。
坂本社長 : ルートに関しては「何故淀屋橋から延伸しないのか」とよく質問を受けますが、これは延伸先 に同じレベルで地下鉄御堂筋線が位置しており、もしそこから延伸するとなれば莫大な費用と時間がかかりま すから、事実上不可能です。現在の天満橋駅からの分岐延伸は、同駅には番線が4つあったことから、その2 つを利用しようとしました。
――他のルートは検討されなかった。
坂本社長 : 3〜4ルートは検討しておりましたね。ただ、現在のルートも含め、どのルートでも当時の補 助制度では事業として成立しなかったわけです。現行の事業スキームでなければ実現しなかったでしょう。
――社長ご自身の中之島線との関わりは。 坂本社長 : 社長に就任しましたのが平成17年6月で、話があった時は正直、「ほんとに私でええのか な」という気持ちでした。中之島線との関わりは京阪在籍時の平成11年に「中之島新線調査委員会」が発足 しまして、そのメンバーに加わってからです。まあ、資金調達やルート選定などは、前任の伊藤社長が深く関 わっており、相当ご苦労なさったと思いますね。 〜〜〜〜〜 東西軸のネットワーク形成へ 〜〜〜〜〜〜 中之島地区など動き出したまちづくり ――中之島線の果たす役割、沿線への影響についてはどうお考えですか。
坂本社長 : ひとつには東西軸という考えがあります。大阪市内の地下鉄は南北軸は整備されておりますが 東西軸、特に中之島地区はある意味で大阪や日本を代表する企業が集積しているのにもかかわらず鉄道がな い。鉄道ネットワークの空白地帯になっており、自動車を使うために交通渋滞が起こり、平成12年に完成し た国際会議場など集客施設もできつつあるため、利便性向上のためにも東西軸を確立する必要があります。 ――確かに、淀屋橋以西の不便さは実感しております。
坂本社長 : もうひとつは京都との直結です。中之島線により大阪のビジネス街と京都の観光名所を結ぶ広 域ネットワークが出来上がります。さらに中之島線が動き出したことにより、中之島地区での土地の高度利用 化や再生計画、活用計画などが活発化してきました。
――元々あった計画に弾みがついた。
坂本社長 : ええ、中之島線がそれらに拍車をかけたことは間違いはありません。さらに都市再生事業の緊 急整備地域に中之島を含めた御堂筋周辺が指定を受けたことも追い風になりました。
――当然、沿線や地元地域も活発化してきた。
坂本社長 : 中之島新線を軸とした地域活性化のための協議会がつくられ、活動が活発に行われています し、新線計画と緊急整備地域の指定により各種の再開発計画などが一斉に動き始めています。いずれにしろ中 之島線が核となりました。
――その工事も、平成十五年度から始まっておりますが、現場見学会なども多く見学者が多いとお聞きして おります。
坂本社長 : 従来の工事現場は、一般の人が寄り付きがたい雰囲気でしたが、ここでは現場を覗ける工夫と か現場周辺の景観配慮やライトアップ、川沿いの遊歩道、植樹など、いろいろな試みがあると見学なさった皆 さんが仰っております。
――社長ご自身も、これまで鉄道工事の現場はご覧になってこられたと思いますが、現在の現場はいかがで す。
坂本社長 : 昔とは比べものにならないくらいきれいになっており、隔世の感があります。
――工事そのものは順調に推移しておりますが、施工JV各社に対してなにか。
坂本社長 : 無事故・無災害で安全第一でお願いしたい。また、少しでも早く完成させていただきたい。開 業は平成20年度となっておりますが、私自身としては平成20年内を希望しております。進捗状況を見てま すと可能ではないかなと思うんですが、まあ確約はできませんけど。あとは、コスト縮減へ努力していただき たいと。
――安全と工期短縮、コスト削減ですね。
坂本社長 : 鉄道会社は運転保安・安全第一が基本であります。これは鉄道従事者の基本精神ですが、建設 業も同じでしょう。実は、建設現場で行われていたKY活動を京阪電鉄で初めて実践したのが私でした。そう いう想い出もありますが、まあとにかく、事故なく無事竣工を迎えてほしいですね。
――本当にそうですね。今後も事業推進にご尽力下さい。ありがとうございました。 ================================================= 坂本富司雄(さかもと・ふじお)社長の略歴
昭和41年4月京阪電気鉄道?入社、平成9年6月同社取締役、同11年7月同運輸事業本部副本部長、同13 年6月同常務取締役、運輸事業本部長、同15年6月同専務取締役を経て現職に。大阪大学工学部電気工学科 卒。65歳。
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