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――まずは大中建の活動を通して、府内中小建設業の現状をお聞きしたい。  ■岡野会長 昨年度は五団体が退会しています。協会を構成している加盟団体の運営が厳しく苦しい状況に  なっているのが一つの原因です。協会活動では本年度、特に国交省の要望に添い、重点的な行動として加盟  団体のもならず、広く建設企業の社会的責任とコンプライアンスの実効性を優先課題として国交省より講師  を招いての研修会などを開催しました。    ――活発に活動されているようですね。  ■岡野会長 また、地震等の災害時における応急対策業務に関する協定を大阪府都市整備部との間で締結  し、防災活動の積極的な支援を地域社会とともに生きる建業団体として、行政とともに組織的に取り組んで  おります。これらの活動により、大中建としての組織活動は国交省はじめ大阪府においても深いご理解とご  支援をいただけるようになりました。特に府との防災協定等では、大中建加盟企業に対し経営事項審査で評  価点として23点が加点され、地域に貢献する協会として加盟団体がその意義を深く理解し、力強い支援を寄  せてもらえるものと強く期待しております。    ――会員数の減少は大中建に限らず、地域協会はどこも同じ状況だと思います。  ■岡野会長 とりわけ、中小建設業は厳しい状態にあります。国土交通省でもセーフティネットなどの支援  制度を整備されておりますが、実際に融資するのは公庫だけでなく市中の取引金融機関であり、このため融  資を申請しても非常に慎重で、特に我々のような中小建設業に対して厳しく、なかなか融資を受けられない  と聞いております。    ――せっかくの制度が活かされていない。  ■岡野会長 経営状況や将来の利益見込みなどが審査対象とされますが、中小建設業者は公共事業への依存  度が高いことから受注見通しが立ちにくい上、ダンピングが横行する中では、受注してもそれだけの利益に  結びつくか疑問です。会員からは融資に関する条件緩和を求める声が多く寄せられております。    ――経営の厳しさは、やはり工事量の減少が大きく響いている。  ■岡野会長 工事量の減少は一つには、戦後復興から継続されてきた社会資本整備が充足してきたという考  え方もあり、事実、ある程度は満たされている部分は確かにあります。しかし、これからは従来の社会資本  とは異なった部分での整備が必要ではないか、我々の子供達、次世代が安全で安心でき、また低炭素社会で  快適に生活できる社会資本整備が必要ではないかと考えます。その一つが既存ストックの維持と改革改良で  あり、エコを中心としたインフラ整備でしょうね。    ――中小建設業の倒産や廃業が増加してきており、また後継者問題もあります。大中建の会員企業では、ど  の問題が大きいですか。  ■岡野会長 公共投資の縮減に基づく工事量の減少が一番の問題だと思いますね。工事量の減少が資金難を  もたらし、これが大きな要因となって倒産を招き、また、倒産の前に廃業するところも増えてきており、む  しろ後継者問題より工事量の減少、資金難と業種としての見通しの不安が要因です。かつて建設業がもては  やされた時代もありましたが、今では人も集まらず資金難と受注難では、精神的にも落ち込み、廃業を選ぶ  ケースも増えています。しかし、今年度は自民党案によれば、毎年、3%の縮減は維持しつつも大型の公共  投資の報道がなされ、これにより将来に対する希望と明るさ、かつてのような国づくりを担っているという  使命感が持てれば、まだまだやれると思っております。    ――しかしながら、老舗といわれる業者や伝統のある業者も生き残れなくなっている。  ■岡野会長 特に懸念するのは、このままでは優れた技術が廃れてしまうことです。例えば伊勢神宮では20  年毎の遷宮によりその建築技術が継承されていますが、そういった技術の伝承が崩壊してきている。一つに  は徒弟制度がなくなったことも要因ではと思います。かつての先端技術者であった職人達は、師匠の下で修  行と経験を積み重ねて一人前となって独立していきましたが、今はそういった制度が廃れ技術の低下を招い  ております。     ――現在では、法令などでかつてのような雇用関係は築けませんね。  ■岡野会長 確かに、法律により人権は守られることは良いとは思います。しかし職人不足を補うために出  てきたのが機械化工法で、戸建て住宅等での大量施工が可能となりましたが、これによりまた技術の低下を  招くことになりました。この職人技術の低下は中小建設業者にとっては大きな痛手です。    ――ユニット化やプレハブ工法が主流となる。  ■岡野会長 プレハブ建築にもいい面があり、我々も教わるところはたくさんあります。非常に合理的で工  期も短い。ですから今後は、画一的になるが量産体制をどう調整するかになってくると考えております。        新たなインフラ整備で生き残りを  企業の個性、切り口を変え評価を  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~    ――先程、エコを中心としたインフラ整備のお話がでましたが、具体的には。  ■岡野会長 例えば現在では、高層住宅やマンション等は鉄筋コンクリート構造と鉄骨構造等で建設され、  耐火耐震構造が主流になっておりますが、耐用年数が来れば解体されます。そのうちのコンクリート部分は  産業廃棄物として処理されます。ならば、主構造を鉄骨として外壁にソーラーシステムを採用すればいいの  ではないかと。これは国交省の施策に基づくもので、CO2排出抑制策にも合致するものです。    ――新たな建築素材の採用ですね。  ■岡野会長 コンクリートは解体すればゴミですが、鉄骨はリサイクルが可能です。そこへソーラーシステ  ムを組み合わせていけば、リサイクル型の集合住宅の整備が可能となり、直に我々の仕事に結びつかなくて  も、将来において実のある建設業としてやっていけるのではと。今後、中小業者が生きていくためには国や  世界、未来のためになる工法、素材の検討・開発が必要になるのではと考えております。優良な業者が残  り、技術が継承できるように未来に希望を持てるような体制づくりが必要だと思います。    ――ところで予定価格などの入札価格の事前公表に対して、業界内でもいろいろ意見があります。  ■岡野会長 予定価格については事前公表は差し支えないと思いますが、最低制限価格の基準はきっちりと  決めていただきたい。それと同時に国や防衛省などで一部実施されている様に、設計明細書(参考明細書  等)を公表していただきたいですね。これは見積費用の軽減のために大変ありがたいことです。また、大切  なのは設計図書の読み違いがなくなり、入札参加各社の公平な入札が出来ると同時に、入札費用の負担が少  なくなり会社経営の合理化につながると思います。     ――なるほど。  ■岡野会長 現在の見積りは積算ですので見積り自体に経費がかかります。それだけ経費をかけて仕事が取  れないとなると非常に苦しいわけで、体力のない業者は見積りだけで潰れてしまうのではないかと危惧して  おります。     ――最低制限価格については。  ■岡野会長 もう少し上の方に設定してもらいたい。70数%の落札率で本当に利益がでるかどうか。過当競  争の中で不当なものは排除できるよう、きっちりとした基本線を引いてもらいたいと思います。発注者によ  れば失格基準を設けておられますが、それでも低すぎます。企業努力しても95%から92%あたりが限界では  ないかと思います。その辺は企業努力によって差はありますが1%程度の利益が確保できるのではないか。  これ以下ではどこも無理ではないかと。    ――制限価格を下回っての受注では、世間的にも「その価格でも十分にできる」と思われてしまいかねな  い。  ■岡野会長 そういう印象を与えますね。建設業は1つ1つの積み重ねであり、かつオリジナルなもので、  どんな仕事でもやれと言われればやりますよ。ただ、きちんとした仕事をしたくても技能者がいなくて出来  ない会社もある。また会社によれば、「そんな仕事は出来ません」というところもあり、反対に「そういう  仕事こそ腕のみせどころ」という会社もある。ですから企業内容も見てくれだけでなく、切り口を変えて実  績を見てみると、おのずとその会社の状況がよく解ります。だから経審などでもそういう部分も見て評価し  てもらいたいですね。    ――本当にそうですね。これからも中小建設業の発展にご尽力下さい。ありがとうございました。          岡野三郎(おかの・さぶろう)会長の略歴  1948年3月、摂南工業専門学校建築学科(現大阪工業大学工学部)卒業、同年4月、岡野建築設計事務所勤  務、1990年11月から日進土建(株)代表取締役に。また、(社)大阪建設業協会をはじめとする各団体の理  事等を歴任し、2006年5月から(社)大阪府中小建設業協会の会長に就任、現在では、(社)全国中小建設  業協会の常務理事、建設業振興対策委員会委員も。1992年全国中小建設業協会会長表彰、2007年大阪府知事  表彰を受賞。奈良市在住。80歳。  

