

阿倍野再開発に復調の兆し 大阪市建設局の、日本最大規模を誇る「阿倍野再開発」に復調の兆しが見えて きた。阿倍野再開発地区内は、イトーヨーカ堂を核店舗とする総延べ17万?の 大型商業施設、地上30階建て高層マンション、高齢化対応施設2棟、ホテル・ 住宅・スクールなど併設の大型複合ビル等、ビッグプロジェクトが目白押し だ。都市再生緊急整備地域の指定区域でもある同地区では、未開発地の整備に あたって特定建築者制度を採用するなど民間活力により、地区に活気が戻りつ つある。現在、再開発施設は29棟のうち23棟が完了。事業計画が未定のC2− 1棟を除く残り5棟の建設計画をまとめてみた。 ▽A1地区A2棟 東急不動産 延べ17万1,322?の商業施設 東急不動産の提案でイトーヨカ堂を核店舗とする大型商業施設が具体化してい る。計画地は地区のランドマークタワーでもある地上40階建てあべのグラント ールの隣り。S造・RC造地下1階地上7階建て延べ17万1,322?規模の施設 を建てるというもの。外観は圧迫感を取り除いた分節街街並み型の建築とする 一方、内部は時代の変化に対応できる業種で構成。2008年度の着工。総事業費 は約220億円。基本設計は安井建築設計事務所。
▽B2地区D4−1棟 近鉄不動産JV 地上30階建て高層住宅 近鉄不動産・東急不動産・東急設計コンサルタント・東急建設JVが、地区の南側にある未開発地に16種類の 住戸タイプを設けて家族形態や年齢層に対応した高層住宅を建設する。RC造地下1階地上30階建て、188 戸、延べ2万930.1?のスケール。施工面でも工業化によるコスト縮減や20か月の工期短縮、ラウンドバルコ ニーの採用をあげている。 ▽A1地区C2−3棟、C2−4棟 トーワ産業 高齢化対応施設を2棟 トーワ産業による高齢化対応施設2棟の計画が着々と進んでいる。建設地は地区の北側、市立大学医学部前の 敷地。建物は南北に2棟。南側にはRC造地上8階建て延べ6.099?の介護付有料老人ホームとメディカルセ ンターを、北側にはRC造地下1階地上8階建て延べ1.852?のヘルスケアサポート付き都市型マンション、 権利床の複合施設を施すとしている。基本設計はアール・アイ・エー・環境開発研究所・日建設計・吉田建築 事務所・久米設計・日本開発JV。2006年度の着工、07年度の竣工予定。 ▽A1地区A1−2棟 アイディーユー 地上25階大型複合ビル アイディーユーが、あべのセンタービルと金塚東4号線に挟まれた未開発地でホテル・住宅・スクールなど併 設の大型複合ビルを計画している。このビルはRC造地下2階地上25階建て延べ2万7,296?の規模。「ホテ ル180室、SOHO的な住宅153戸、誰もがゆるりと過ごせる店舗など」内容。基本設計は松田・平田設計。08 年度の着工めざす。 《記者メモ》 組織的な対応で事業推進を 一方で阿倍野地区第2種市街地再開発事業は巨額の収支不足に喘いでいる。 大阪市が試算した収支予測を見ると、あべのルシアスとA2棟の賃貸期間終了時の資産価値を170億円と想 定、2063年度までの収支差合計マイナス2,270億円に加算し、事業完了時には約2,100億円の収支不足に陥る見 通しだ。阿倍野再開発事務所はこう言っている。「残る6棟を早期に事業完了させることで、毎年度数10億を 越える収支悪化を防ぎたい」、と。 大阪市の試算に対して、大阪市包括外部監査報告書によると事業期間の累積損失を2,124億円と弾いている。 「大阪市は金利上昇などを予測しておらず、あべのルシアスの賃料を今後60年間同水準に確保できるとしてい るが根拠が不透明」と指摘。また、「企業会計的な発想で収支を捉えていれば、もっと早い段階で認識でき、 防止できたと思われる」と報告している。 阿倍野再開発は、1976年9月の都市計画決定から25年が過ぎ、その間、地区内には初の阿倍野第1住宅、あべ のルシアスなど様々な施設が誕生。が、バブル崩壊以後、地価下落により事業費を回収するだけの売却益が見 込めないことから、収支は悪化。大手の百貨店や米国の不動産デベロッパーが進出意欲を示していたが撤退、 計画が一時停滞するなど再開発の危機と言われていた。 今後も賃貸条件の悪化などで赤字拡大は危惧せざるを得ないところだが、「民間の力を借りて事業をやりきる 必要がある」(関係者)と強調。06年度以後着工の施設は、C2−1棟を除いて特定建築者制度で建設が決定 の5棟。これら大型プロジェクトが頓挫しないよう、事業を物件別に精査し、事業をマネージメントできる組 織として着実に進めてほしい。(池上健史)
【写真上は阿倍野再開発の現況、図下は高齢者対応の複合型施設2棟(C2−3棟、C2−4棟)】