拇坂バイパスの重要構造物 早期供用開始に弾みー。「なら・半日交通圏道路網構想」を推進している奈 良県が、その一環として建設を進めている一般国道369号栂坂バイパス(奈良 県宇陀市室生区田口元上田 宇陀郡曽爾村山粕間3.7?)における重要構造物 の1つである(仮称)栂坂第一トンネル(延長430m)工事がこのほど完成し た。幅員が狭小なことに加え、線形も不良なことから、交通の難所といわれ ている栂坂峠にバイパスを建設することによってこれらを解消するととも に、東部山間地域の活性化を図るもので、(仮称)栂坂第二トンネルなどと 相まって、(仮称)栂坂第一トンネルは安全性・利便性の向上に大きな役割 を果たす。 一方、施工を担当した前田建設工業・鴻池組・日本国土開発・伯龍組特定建 設工事共同企業体では、寒冷地での施工に伴う種々のネックを克服しながら 安全第一に工事を推進し、地元の熱意に応える高品質施工を全工期無事故・ 無災害で達成した。
【写真上:起点側坑口/下:坑内】
《安全性・利便性の向上に寄与》 社会経済の進展や多様化する県民のニーズに対応するとともに、県土の均衡ある発展を図ることを目的とし て、奈良県では、「幹線道路網の整備」、「市街地の総合的な渋滞対策」、「奈良らしさを活かした沿道環 境の整備」を3本柱とする道路整備の長期計画「なら・半日交通圏道路網構想」を策定。県内のどこへでも およそ2時間以内で移動でき、半日で往来できる道路や市街地でのより安全でスムーズな移動を実現するこ とによって、奈良県全体がバランスよく発展することを目指す道づくりの基本方針で、2025年を目標として 計画的に事業を推進している。 地域間の交流を促進し、にぎわい・やすらぎ・うるおいのある奈良を生み 出す「なら・半日交通圏道路網構想」において大きなカギを握る「幹線道路網」の整備では、県土の骨格と なる京奈和自動車道や五條新宮道路、地域の軸となる主要国道や県道などの道づくりを推進。また、山間部 などにおいても安心して生活できる災害に強い道づくりを進めている。奈良の中心地への移動時間の短縮を 図り、県民の行動の飛躍的な拡大を目指すために推進している幹線道路を中心としたネットワークづくり。 その一翼を担う一般国道369号栂坂バイパス道路改築(改良)事業も順調に進捗している。 この一般国道369号は、奈良県奈良市を起点とし、三重県松阪市に至る実延長約89?の幹線道路。広域交流の 促進および沿線市町村の連携強化に大きな役割を果たしている。しかし、宇陀市室生区と宇陀郡曽爾村との 境界部にある栂坂峠は、幅員が狭小なことに加え、線形も不良なことから、交通の難所といわれ、抜本的な 改築が強く求められていた。このため、奈良県では、奈良県宇陀市室生区田口元上田口から宇陀郡曽爾村山 粕に至る栂坂バイパス(延長3.7?)の建設を計画。現在供用中の開路トンネルと接続させることによって幅 員狭小、線形不良を解消するとともに、東部山間地域の活性化を図ることとした。仮称・栂坂第一トンネ ル、仮称・栂坂第二トンネルならびに仮称・栂坂一号橋などによってルートを形成する栂坂バイパスの道路 規格は第三種第3級、設計速度は毎時50?となっており、1997年度に事業着手。早期完成を目指し、重要構 造物である仮称・栂坂第一トンネル、仮称・栂坂第二トンネルおよび仮称・栂坂一号橋の建設に力を注いで きた。 このほど完成した栂坂第一トンネルは、延長430mで、上半先進ベンチカット工法および補助ベンチ付全断面 工法によって施工。前田建設工業・鴻池組・日本国土開発・伯龍組特定建設工事共同企業体が多くの関係者 や地元からの熱い期待に応える高品質施工を達成した。 《高度な技術力を駆使し高品質確保》 なら・半日交通圏道路網構想の実現に大きな一石を投じる一般国道369号栂坂バイパスにおける重要構造物の 一つである(仮称)栂坂第一トンネルの施工をメインとする一般国道369号道路改築工事に一丸となって挑 み、高品質施工を全工期無事故・無災害で達成した前田建設工業・鴻池組・日本国土開発・伯龍組特定建設 工事共同企業体。冬木武浩所長をはじめとする精鋭スタッフが、環境保全に留意しながら安全第一に工事を 推進し、早期供用開始への確かな道標を残した。 《前田建設工業・鴻池組・日本国土開発・伯龍組特定建設工事共同企業体》 その工事は、2004年7月末に仮設工事とラップさせながら、総土量が1万5,000立方mにおよんだ明かり部の 切土工事から着手し、10月には坑口部の切土作業を進めた。現在の国道369号線と隣接している起点側坑口部 は、のり面崩壊の恐れがあったばかりでなく、地質調査の結果から、国道側斜面には地滑り跡が存在するこ とが判明したため、現在の国道側のり面に傾斜計を設置し、常時観測しながら作業を推進。また、10月22日 に催された安全祈願祭を契機として本格化したトンネル掘削においても、坑口上部に崖錘堆積物が存在した ことから、長尺鋼管を打設し、これにウレタン系シリカレジンを注入することによって地山の緩みを抑止す るAGF(注入式長尺先受)工法を採用した。 これにより、12月末には、国道と隣接する区間を無事に通過し、年明けからは月平均95mのペースを保って起 点側(榛原側)からの片押しによる掘削を順調に推進。掘削ルートが下り勾配だったため、湧水があった場 合には切羽に水がたまって施工が困難となることが懸念されていたが、湧水量が比較的少なかったことに加 え、事前に余裕のある排水設備を準備していたので、実質4・5か月で貫通を迎えることができ、貫通式は 4月13日に催された。トンネル掘削によって発生した土砂(ずり)を処分地まで運搬するに当たっては、現 場周辺が標高600mの高さに位置していたことから、冬季期間中の路面凍結に対する対策がポイントとなっ た。このため、前田建設工業・鴻池組・日本国土開発・伯龍組特定建設工事共同企業体では、ずり運搬にお ける交通災害、第3者災害の防止を図るため、ダンプトラック運転手への安全指導を徹底したのはもとよ り、綿密な調査によって確立した運搬経路のKYマップを作成して道路勾配の急な箇所、幅員の狭隘な部分 についての危険予知を毎朝の朝礼時において徹底。また、無線を使用して運搬中の連絡を密にとりあうな ど、同じ情報を常にすべての運転手が共有することによって、トンネルずり処理における災害もなく、無事 に処理が完了した。なお、積雪の影響によってずり出しがストップしたのは1日だけで、「予想していたよ り少なかった」(冬木所長)。 《寒冷地での施工に伴うネック克服》 1999年の新幹線トンネル覆工コンクリートの剥落事故ばかりでなく、近年ではNATM工法においてもトン ネル覆工コンクリート背面の空隙・空洞の発生などの不具合が生じていることを背景として、トンネル覆工 の信頼性回復のための工法の開発が強く望まれているトンネルの二次覆工には4月初旬から着手。「天端バ イブレータシステムを導入し、従来では締め固めが困難とされてきたトンネル天端部の締め固めを行うこと によって、より高品質なコンクリートの施工を目指した」(冬木所長)ほか、充填状況の確認として、トン ネル内の電磁波レーダー探査試験を行いながら9月末まで作業を続けた。 また、起点側坑口部においては、既設構造物の撤去を11月初旬から中旬にかけて推進。隣接する国道との間 にあるコンクリート擁壁が、今回の工事によって新設する道路の線形および高低差の関係から支障となるた め、その一部を撤去するもので、現国道の通行の妨げとならないよういかに安全に、しかも残りの擁壁を極 力痛めないようにしながら撤去するかがポイントとなっていた。そこで採用したのがワイヤーソーイング工 法。これは、擁壁を小さく分割するように切断し、その後、大型クレーンを用いて分割したコンクリートの 塊を1個ずつ撤去していくという方法で、無事に施工を完了した。 このほか、昨夏の8月8日から10日に かけては、高校生のインターシップ「わくワーク体験奈良」(ドリーム21けんせつ実行委員会主催)にも参 加。3名の高校生を受け入れ、土木工事現場に対する理解の促進などに寄与した。 《全工期無災害も達成》 また、環境保全対策としては、室生川に注ぐ弁財天川に汚水が流れ込まないように濁水処理設備の充実を図 るなどして対応。さらに、安全管理についても、▽トンネル掘削時における崩落・肌落ち災害の防止▽第3 者交通災害の防止▽墜落・転落災害の防止ーを重点項目として定め、緻密な活動を展開した。具体的には、 トンネル掘削全線における鏡吹付けコンクリートの完全実施、切羽周辺に関する計測実施、KYマップの作 成などによる運転手への注意喚起、当日の作業手順確認などを通じて安全意識の高揚を図り、約9万時間に およぶ全工期無事故・無災害を達成した。 冬木武浩所長の話=全工期無事故・無災害での工期内竣工を達成できたのは大きな喜びであり、品質面にも 満足している。これも偏に、奈良県大宇陀土木事務所をはじめとする関係各位のご指導、ご支援の賜であ り、心から感謝申し上げます。また、供用開始後には、利便性・安全性が向上し、地域の方々から親しまれ る道路として活用されることを望んでいます。