田中宏・田中建設(株)代表取締役社長 《誠実をモットーにひたむきに》 企業規模の大小はもとより社風、成り立ちはさまざまだが、各企業や団体のト ップ・リーダーと呼ばれる者は唯一人しかいない。全てを統轄する立場では、 人知れぬ苦労もあるはず。では、それらの人達は普段、どんな暮らしを送って いるのか。大阪の中堅企業で九十年を越える実績を有する田中建設(株)(大 阪市天王寺区北河堀4−9)の田中宏取締役社長は、仏像を求めて国内外への 寺社巡りが趣味だと言う。その他にも陶芸や書道、俳句等、一見無骨そうに見 えるが(失礼!)、驚くほど多彩な顔をお持ちだ。健康のため現在でも電車通 勤を続ける田中社長に、これまでの思い出やご家族のことなどを語ってもらっ た。
――初めに一日のスケジュールからお聞かせ下さい。 「朝はだいたい六時半頃に起きます。それから仕度をしてバスと地下鉄で会社まで行きます。会社に着くのが 八時十分頃になりますね。あとはその日その日の業務をこなすだけで。体質的にお酒が飲めないもので、お付 き合いなどのない日は、真っ直ぐに帰宅します」
オイルショックを機にマイカー通勤をやめ、以来電車通勤が続く。現在、副会長を務める大建協に行く時で も、出来る限り電車を利用する。また、土曜日は現場の関係で交代制での休み、田中社長も月に2回は出勤。 ――お休みの日は、どのような過ごし方をなさっていますか。 「学生時代は山登りをやっていました。ピークハンターと言って一度登った山には登らないものですが、八ヶ 岳だけは別で四季を通じて何度も登りましたね。また仏像が好きで、高校時代からハイキングがてらに見歩い ております。ほかには俳句と書道ですね」 仏像を求め、京都・奈良は言うに及ばず海外にまでも足を運ぶ。昔は家族連れで出かけ、子供達からは「遊 園地に連れて行って貰った事がない」と言われたと苦笑する。「ゴルフももう、やっておりませんし、とにか く歩くのが好きです」 ――陶芸もご趣味で、個展も開かれたと伺いましたが。
「実は陶芸の先生が遠方へ行かれてここ数年は途絶えているんです。機会があればぜひやりたいです。陶芸は 面白いですね。ものづくりの面白さがあります」 大学のOBで組織する会があり、そこで手ほどきを受けたという。これまで作った作品は、「殆ど人に上げ てしまい、残ったものも家で使っています」とのこと。俳句や書道も会を通じてのもので、社長室には自らの 手による漢詩と俳句が飾られてあった。 ――ご家族について教えてください。奥様との馴れ初めなども。
「現在は家内と二人ですが、子供は男ばかり三人です。私自身男ばかりの3兄弟で孫にも男の子が多く、男系 家族です。家内とは大学の同級生です。私の影響でしょうか、仏教図像学に興味を持っていろいろと勉強して おりますね。関東の出身ですから大阪に来ていろいろと苦労はあったと思います。ただ感謝の一言です」
――社長ご自身は三代目ですが、後継者については。 「子供達には特に強制はしませんでした。上の2人は別の職業に就いておりますが、幸い三男が会社に入って おります。私自身もそうですが、当初は家業を継ぐつもりはありませんでした」 田中社長はジャーナリスト志望で、大学も文学部を選んでいた。しかし4年生の夏休みの帰省中、当時の社長 であった父親に説得されこの道に。「まだまだ親の意見は絶対の時代でした」。軌道修正後はひたすら勉強、 独自の‘傾向と対策‘により建築の資格を取得する。この資格の取得に関しては社員にも奨励している。
「資格を取得した社員に対しては報奨金や手当を支給しております。例えば同期入社でも資格者とは差がでる わけで、みんな必死になって勉強しますよ。現在では殆どの社員が一級建築士の資格を持っています」 ――まったく違う道を選択されたわけで、いろいろとご苦労もあったと思いますが。 「苦労よりも喜びの方が大きいですね。当社が施工した建物が年月を経て、その街の風景に溶け込んだりして いるのを見ると、この仕事をしていて良かったなと思います」 同社のISO取得時の理念が‘お宅に頼んで良かったョ‘。5年経ち10年経っても「お宅に頼んで良かった ョ」と言われるような仕事を心掛けるように―との思いだ。その気持ちは、田中社長のモットーである「誠 実」に結びつく。 「平凡な言葉ですが、誠実がゆえに損をしたとしても悔いはありません」 (文・構成=渡辺 真也) 田中建設は、1913年(大正2年)に「石浜組」を前身に創業、1949年に現社名に。創業者で田中社長の祖父に あたる石浜太郎平氏は宮大工でもあり、大阪城大手門改修工事で手掛けた「柱の継手」は、まさに「匠の技」 で長い間その構造が判らず、「大阪城の七不思議」と呼ばれていた(詳しくは同社HP http://www.yokattanaka.net/で)。 田中宏(たなか・ひろし)=1958年早稲田大学文学部卒業。同年4月田中建設に入社。資材部長、取締役綜合 管理室長を経て、同49年常務取締役、1980年3月に代表取締役社長。現在、社大阪建設業協会副会長、社全国 建設業協会理事。これまで大阪府知事表彰や国土交通大臣表彰を受賞。吹田市在住。71歳。
【麻里のひとりごと】 田中社長の温かなお人柄、建設に対する熱い思いに触れることができました。また、趣味やライフスタイルに ついてもたくさんのお話ありがとうございました。多彩な趣味の一つである、自筆の掛け軸はとても素敵で印 象に残りました。ますますのご健康とご活躍を、お祈りいたします。