自然と心通わせる 季節感のある暮らしへのあこがれ 奈良でレジャーの名所だった「近鉄あやめ池遊園地」跡地(約20ha)で、あや め池の水辺空間と緑を中心に自然環境との共生をテーマとした次世代型のまち づくり機運が高まっている。地元住民や市民、関係者、来園した多くの人たち が今後の跡地開発の行方を見守るなか、奈良市と跡地地権者の近畿日本鉄道 (株)、コンサルタントとして参画している(株)日建設計の三者は、季節感 のある暮らしづくりを提案しながら、「あやめ池」ブランドを新しいスタイル で再び開花できる構想を具体化しつつある。これから遊園地跡地がどのように つくられるというのか、現況をレポートする。(池上健史) ※写真上:ささやかな自然とあやめ池。来場者の多くの思い出が詰まった遊戯 施設は取り払われ、大きな池の上には”架け橋”が1つ残されていた。 ※下:菖蒲池駅を下車してすぐ、奈良でレジャーの名所だった「あやめ池遊園 地」跡地
ジェットコースター、観覧車、動物園、ボウリング場・・・。近鉄・菖蒲池駅を下車してすぐ、奈良市あやめ 池一丁目九番一号にあった「近鉄あやめ池遊園地」はかつて、大きな池のまわりにつくられた来園者の多くの 思い出が残る遊戯施設で賑わいでいた。県下で唯一の動物園もあり、大阪圏を中心としたファミリー層に親し まれていたが、USJ開業後に利用者が激減するなどで2004年6月6日に閉鎖された。 あやめ池遊園地で遊んだ記憶はないが、ここからまた、新たな「目玉」をつくって人を呼ぶ画期的なまちづく りの構想・推進に興味津々。だったら、「百聞は一見にしかず」。「ススキ」が秋風にそよぐ初秋の1日、現 地を訪ねた。人気だった観覧車の景色も、すべてのアトラクションが取り払われ、景色は一変していた。あや め池の水辺空間に景観の焦点となるメタセコイア林など、奈良人のライフスタイルと隣り合わせの、ささやか な自然だけが残されていた。 大きな池と、まとまりのある樹林が残る遊園地跡地のまわりは大きな文字で「敷地内 立入禁止」と書かれた 看板が掛けられたフェンスで覆われていたが、そこにある空間は「再開発ゴー」への合図を待っている、そん な雰囲気を醸す。一方、遊園地跡地界隈は静かで穏やか、自然性の低い地域とも感じられたが、「誠実なま ち」という印象を受ける。「貴重な自然がある。楽しめて、居心地のいい生活空間ができれば」。奈良市・都 市計画課の大窪子保治さんは感慨深げだった。 昨年12月、跡地地権者を中心に関係者から、「『あやめ池』ブランドを新しいスタイルで」という声が高ま り、奈良市と近畿日本鉄道(株)、地元住民代表、市民代表、学識者らで遊園地跡地の敷地利用を検討する 会合が開かれた。当初、あやめ池の一部を埋立て、駐車場をつくるという構想もあったが、「ステキな池や 緑があるのだから埋立てないで」という地元から反発の声を受けて、白紙になったという。 〜近大付属小・幼稚園移転、医療法人など進出に意欲〜 ここは風致地区であり、規定の法規制の見直しが必要であることから様々な意見が出、活発な議論が展開さ れ、今年3月に遊園地跡地の土地利用計画が固まった。「多機能複合型」。少子高齢化、環境意識の向上、健 康志向をキーワードに教育、文化・コミュニティ、居住、健康・福祉、生活支援の五つの機能導入を提案して いる。20年の開校をめざし近畿大学付属小学校・幼稚園の移転計画が決定しているほか、ウエディング施設の 企画・開発・運営を手掛ける企業や、医療法人らが進出に名乗りを挙げている。 民間側の創意工夫を採り入れて地域のニーズにあった、地域に受け入れられる事業計画の策定とその実現に向 けて、奈良市と近鉄グループによる計画内容の詰めの作業が進む。インフラ整備では都市計画道路・平城学園 前線(W16m)の整備と併せ、駅前広場(約2.1ha)をつくったり、池沿いには遊歩道を新設する。パワービ ルダーや住宅デベロッパーが意識している環境共生型コミュニティ住宅の開発も視野に入れている。 レジャーの名所に代わる、シンボリックな施設の建設計画も注目されるところ。例えば、菖蒲池駅の北側にあ る大渕池(登美ケ丘2)や駅南側の蛙股池(あやめ池9)周辺で見られる博物館や美術館など文化施設をイメ ージしたメーンスポットをつくってもいいのではないかという構想が練られている。「博物学や造詣美術の文 化要素を採り入れた『目玉施設』を敷地内の中心地に建設するのが望ましい」(事情通)と話す。 今後は、奈良市と近鉄グループを中心に計画をさらに具体化させ、規定の法規制の変更やまちづくり交付金適 用への申請手続きなどを経て、2007年4月以降のできるだけ早い段階で事業着手する。大窪さんは「今年中 か、遅くとも来年3月までに土地区画整理手法と再開発手法の併設型で施行するのか、それとも民間活力を導 入するのか、多面的な観点から検討し事業手法を決めたい」と力を込める。新しい郊外都市「あやめ池」の誕 生へ、着実に動き始めている。 取材を終えて++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ささやかな自然が残る遊園地跡地。優しい秋風にそよぐ「ススキ」の花穂が迎えてくれた。残された課題は多 いが、これからも新しい魅力づくりへの意欲を欠かさず、 環境を守る という姿勢で行政も、企業も、住民 も心を通わせながら取り組み続けてほしい。秋に咲くススキの花穂の花言葉は「心が通じる」だった。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++