「場所」の魅力、可能性を考察 武庫川女子大学建築学科の主催による講演会「建築の原型と継承―これからの建築の あり方を考える―」が17日、西宮市の甲子園会館西ホールで開催された。今年2回目 となる講演会で、今回は東京大学の鈴木博之教授を招いて行われたもので、講演会に は、岡崎甚幸・建築学科長はじめ学生、一般から約200人が参加。講演終了後には、一 般参加者を対象に会館の見学会も行われた。 14時からの講演会行では、初めに主催者を代表して岡崎学科長が挨拶。岡崎学科長 は、「建築は時代の文化を取り込んでいる」としながら、日本の場合はそれに欠ける 部分があり、その要因のひとつに「建築教育システムに課題がある」と指摘。このた め「建築は社会との結びつきが大切」との観点から講演会を開催しているとし、今回 の鈴木教授については、「日本の建築を考えるリーダーとして活躍されている」と紹 介。講演の成果に期待を寄せた。
講演で鈴木教授は、「建築はいろんな考え方でできるもの」として、この講演を「それを考えるきっかけと したい」とした。まず、建築の要素としてイタリアの作家ウンベルト・エーコが記した「洞窟」と「階段」 を西洋の概念とし、日本のそれは「空間」と「場所」であるとした。 特に日本建築では、「屋根」が重要な要素であるとして、「屋根は、その下にどういった空間が形成されて いるのかを示すサイン」とし、重要な文化的意味を現す「記号」であったと説く。その証しとして、登呂遺 跡に残る屋根形式の住居から、江戸時代の天地根元宮造などの屋根形式を上げながら解説した。 また、建築の始まりとしては古代ギリシャの神殿など、「世界的にはいくつもの説がある」としながらも、 場所の表現としての「平面的展開の建築」と、ファサードなどに代表される「立体的展開の建築」の2つの 建築の在り方を示唆。近代は空間的建築に囚われすぎるきらいがあるーとし、「場所としての建築を見直し たい」とした。その「場所」については、場の力や可能性、才能といった意味を持つ「ゲニウス・ロキ(地 霊)」を上げ、近代建築においては、固有の場所に基づいたその場所の可能性について、「建築とともに考 え、読み解くことが今後、鍵となるのでは」とし、場所の持つ意味を知ることが「良いデザインを生むこと になり、新しい建築の発想となる」と語った。 さらに「建築の要素」として、古代ローマ帝国の建築家であるウィトルウィウスが著した建築論「建築につ いて」の中で「強さ・耐久性」と訳されるフィルミタスを「100年後も存在する概念」として捉え、「建築の 出発点に、フィルミタスの概念に戻り、見直しを」と呼びかけ、「手を入れながらも長持ちさせる。その中 で建築を考える何かが含まれている」と述べ、最後に「建築とは、これだと言う回答はないが、フィルミタ スやゲニウス・ロギの概念を理解することで、新しい可能性が出てくるのでは」と自ら、また参加者に問い かけて講演を締めくくった。 鈴木博之 (すずき・ひろゆき)東京大学工学部建築学科卒、同大学院に進んだ後、専任講師、助教授を経て教授に。 ハーバード大学客員教授(美術史学科)。2005年に紫綬褒賞受賞。著書に天上の館(訳)、古典主義建築の 系譜、建築の世紀末、建築は兵士ではない、東京の「地霊」、明治の洋館100選、日本の近代10都市へ、現代 の建築保存論、都市の記憶など多数。