(社)日本建築家協会近畿支部(吉羽逸郎支部長)では、大阪・東京の中央 郵便局庁舎を設計した建築家・吉田鉄郎(1894―1956)の軌跡を映像と語り で辿る「日本における近代建築の原点―吉田鉄郎の作品 大阪・東京ふたつ の中央郵便局庁舎―」を13日、大阪市北区梅田の大阪センターで開催した。 吉田の生涯にスポットを充てたドキュメンタリー番組の放映を機に、その功 績を検証するとともに、代表作である2つの郵便局庁舎の保存と活用につい てを考えるもので、関係者はじめ一般から約120人が参加した。 今年5月に放映された番組を契機として、6月には東京で2つの中央郵便局 の保存を訴えるシンポジウムが開催され、東京と同様、再整備が計画されて いる大阪でもその気運を盛り上げようと、今回の開催となった。主催者であ るJIA近畿の小島孜幹事長は、大阪中央郵便局について「近代建築が建ち 並ぶ中で、普遍性を高める建物」とし、北ヤードの開発が進む梅田にあって も存在感のある建物であり、「建替計画が進む中で保存をどう考えていくか の場としたい」と今後の議論に期待を寄せた。この後、吉田の地元である富 山テレビ製作のドキュメンタリー「平凡なるもの 建築家吉田鉄郎物語 」 を上映。初めに番組を制作した同局の東亜希子プロデュサーが、「放送を機 に吉田氏ゆかりの方々から便りがあり、今後もこういった活動が広がってい けばと願う」と挨拶した。
番組では、ヨーロッパで出版された3冊の著書の紹介はじめ、生い立ちから、逓信省での作品と日本大学教 授としての活動を追いながら、その代表作となる東京・大阪の郵便局庁舎について、かつての部下や教え子 たちの証言を基に、吉田の建築思想や手法を検証。建築家ブルーノ・タウトが絶賛した東京中央郵便局は、 柱と梁を主とした「ぜい肉のない建物」とされ、「日本の伝統と当時の最先端の技術(モダニズム)の融 合」と評し、大阪中央郵便局は、そのモダニズムを「さらに徹底したもの」とする。番組は最後に、吉田の 残した「平凡な建築を日本中にいっぱい建てた」とする言葉で締めくくっている。 ビデオ上映に続き、郵政省OBでJIA会員である南一誠・芝浦工業大学教授が、‘未来につなぎたい吉田 鉄郎からのメッセージ’をテーマに、庁舎保存の重要性を指摘した。2つの局舎について南教授は、「従来 から建築家の評価は高かったが、一般の方にはなじみが薄くかった」とし、今後も機会を捉えて訴えていき たいとした。保存活動については、建替計画における不動産開発事業に対するリスクなどを上げながら、保 存活用例として三井本館を上げ、「重要文化財の指定を受けることも一つの方法」とし、東京での保存活動 の状況を報告するとともに、「大阪はまだ保存の望みがある」と呼びかけた。 次いで、足立裕司・神戸大学大学院教授が、‘解題’として作品を解説。足立教授は、建替に反対の立場と しながら、「保保存には一般の理解と理由付けが必要」とし、文化財保護の観点からのアプローチを指摘。 郵便局庁舎に関しては、「東京は吉田の手法の過渡期であり、大阪は完成形」とし、特に窓の採り入れ方で 「吉田の歩みが理解できる」としながら、「単なる形式美では割り切れないかも知れない」と語り、今後は 「吉田の意図、思想をどう伝えていくかが課題」と結んだ。 このほか、参加者による意見交換と松隈洋・京都工芸繊維大学大学院准教授によるコメントが行われた。共 催・社日本建築学会近畿支部、DOCOMOMOJapan、近畿産業考古学会、後援・(社)日本建築協 会、(社)大阪府建築士会、(社)大阪府建築士事務所協会。