‘中世寺社建築‘がテーマ 神戸の観光資源の1つである建築物等を通して、歴史や文化、物語に触れる 「神戸建築物語」が12日、神戸市西区の神戸市埋蔵文化財センターで開催さ れた。第6回目の今回は、‘神戸の中世寺社建築’をテーマに、西区に残る 中世に建造された寺社の歴史や建築技法について、講演会と現地見学会が行 われ、市民ら約100人が参加した。
講演会は、同センターの渡辺伸行所長が「西区の歴史遺産について」、神戸芸術工科大学の山之内誠準教授 が「神戸の中世寺社建築について」をテーマに、それぞれ講演を行った。 渡辺所長の講演では、地勢はじめ地層、気候風土などから西区の成り立ちを解説。西区の歴史遺産について は、縄文時代は集落数も少ないため遺跡も7つ程度しか残っておらず、稲作が始まった弥生時代以降から は、集団・集落としての結束も強まり、また政治権力の出現とともに、集落背後の丘陵に古墳が築かれはじ めたと指摘した。 飛鳥・奈良時代には道の整備をはじめ、ため池などの土木工事が始まり、仏教思想の伝来とともに、寺院の 建立が盛んとなり、その背景として「寺院建立には免税措置の要素もあったのでは」と考察した。平安時代 に入ると、天台宗系の仏教が民衆に流布され、太山寺(国宝)や如意寺が建立された。これらの経緯を踏ま え、渡辺所長は「西区は畿内の西端という地理的から、畿内中央と西国との交通の要衝にあった」とし、そ れらの影響下での遺産が残ったとした。 続いて講演した山之内準教授は、西区に現存する寺社建築に関して、その建築技術からアプローチを行っ た。神戸に残る中世寺社建築では、環境保存区域9カ所のうち6カ所が西区と北区に在り、「1つの地域に これだけ中世寺社建築が集中しているのは全国的にも珍しい」とした。 中世寺社建築の特徴として山之内準教授は、「近世と比べ装飾が少なく、小規模のものが多い」としなが ら、細部の意匠とプロポーションでの技法が完成したとし、その技法である▽隅伸びの技法▽軒反りの技法 ▽枝割と六枝掛ーを挙げ、太山寺や如意寺での事例を解説。 隅伸びの技法は、中央よりも端の柱を長くしたもので、軒反りは軒の中央から両端が除々に反りあがってい くもの。技法的な統一性はなく、大工により少しずつ違いはあるが、いずれも「建物をいかに美しく見せる か」という観点から発達した。また枝割と六枝掛は、垂木の間隔を基準に寸法を揃えた技法で、特に六枝掛 に関して山之内準教授は、「現在に至るまで日本建築のディテールの基礎となるもの」とした。 これら講演会終了後は、講師とともに、バスツアーを行い、太山寺はじめ如意寺、瑞谷城跡、性海寺、住吉 神社など、西区に残る寺社を見学した。