耐震化率向上へ意欲、技術の継承も課題 大阪府において府営住宅や公共施設など府有建築物の設計や建築、設備などを担当す る大阪府住宅まちづくり部公共建築室は、技術者集団として府の建築行政を支え、ま た安全・安心な住まいづくりを目指し、各種の施策を推進している。今年4月に就任 した南正晴室長は、事業の大きな柱でもある府有施設の耐震化率の向上への取り組み に意欲を見せながら、環境技術など新たなテーマにも挑戦したいと語る。その南室長 に、今後の事業展開などを聞いた。 「今年度の府政運営のキーワードは『変革と挑戦』であり、多くの課題はあります が、従来の行政上の慣行にとらわれることなく果敢に挑戦していくことが基本にあり ます」と就任にあたっての抱負を語る。
今年度事業では‘安全・安心で居住魅力と活力のある大阪’とする住宅まちづくり部全体の目標に向け、安 全な住まいとまちづくりに取り組むこととし、その実現のため「府有建築物の耐震化をいかに推進していく か」が公共建築室の課題だとする。 府では、2015年度までに府有建築物の耐震化率を90%以上とする目標を掲げているが、「もう少し着実に進 めるための実施計画や年次計画的なものが必要では」と、より効率的で効果的な取り組みに意欲を示す。耐 震化にあたっても耐震改修や耐震補強、建て替えなど、その手法は様々であり、その中で公建室は工事にお ける実行部隊となるが、「その方針を決定するに際しても技術的なサポートは積極的に関わっていきた い」。また、府営住宅などにおいては太陽光発電などの新エネルギーや省エネルギー等の環境技術の導入推 進も大きなテーマになるのではとする。太陽光エネルギーでは今後、ソーラーパネルの低廉化が進み、国の 交付金等を活用するなど、「費用対効果の検証をはじめ、導入に向けた検討を進めたい」とする。また、屋 上緑化やLEDの採用など、府有建築物の耐震計画や保全計画の中で「少しでもそういった視点で導入を図 りたい」との思いを込める。 入札・契約制度に関しては、総合評価落札方式の本格実施に伴い、「工事対象範囲の拡大と技術審査型で公 示から落札候補者決定までの時間短縮」に取り組む。技術提案型では、府営住宅の耐震改修事業に伴い「居 住しながらの工事提案」などで活用したい意向を示し、設計業務での建設コンサルタントの契約について は、今年度から指名型プロポーザルから公募型への転換を図り、「条件をオープンにして参加者の門戸を広 げたい」と透明性や公平性の向上に期待を寄せる。 設計業務の公募型プロポーザル方式では、耐震改修工事等で既に数件で実施。意匠と構造の事務所による設 計JVでの応募も可能としたところ、複数のJVからの応募があり、「参加しやすい環境づくりができたの では」と評価した。 一方、「発注者としても最低限の技術は必要」とする南室長だが、現場経験や資格を持つ職員の多くが定年 を迎える中では‘技術の継承’も課題のひとつ。このため、退職者の再任用制度を活用するとともに若手職 員らには資格取得を奨励。また、総合評価方式に関しても「企業からの提案をどう評価するのかを、我々も 問われている」ため、内部でも技術の研鑽が行われており、職員の技術向上にも成果がある別の側面からの 効果を上げる。 思い出に残る仕事として千里ニュータウンをはじめとする府営住宅での一部屋増築工事を上げる。台所や浴 室などの工事を実施するものだが、入居者の在宅時に工事を行ったり、時には留守宅で工事をしたり、「入 居者の方々との信頼関係が大事であり、住民の皆さんの協力が一番印象に残る」。また、建築都市部時代の 入札契約グループでは、電子入札の立ち上げに携わったことも。 入庁以来、建築以外のの部署も経験したという南室長だが、やはり建築技術者であるため建築を語る想いに は強いものがある。技術者集団のトップとして今後の手腕に期待がかかる。 南正晴 (みなみ・まさはる)明石工業高等専門学校卒・大阪工業大学工学部建築学科卒。1974年4月、大阪府入 庁、2005年4月、建築都市部公共建築室特別建築課長、2006年4月、住宅まちづくり部公共建築室特別建築 課長、2007年4月、公共建築室計画課長を経て、2009年4月から現職に。兵庫県出身。57歳。